2018年11月23日公開/2019年2月3日情報更新

沢木耕太郎『深夜特急』海外旅行好きバックパッカーのバイブル。超面白い!けど嫌いな理由

この記事では、

  • ●『深夜特急』ってどんな本? どうして面白いのに嫌いなのか?

について書いています。

深夜特急ってどんな本?

沢木耕太郎の小説『深夜特急』は多くの海外旅行者、バックパッカーに読まれている名著だ。

特に年配の旅行者であれば、必ずと言っていいほど知っている本。大沢たかお主演でテレビドラマにもなった有名作品だ。

その内容はというと『インドのデリーからイギリスのロンドンまでを、乗り合いバスで行く』と、ある日思い立った「私」が仕事を辞めて旅に出る、というもの。

香港では黄金宮殿という名の連れ込み宿に泊まり、途中マカオでは大小というギャンブルにはまって、あわやという目にも遭い……。

そうして思いも寄らぬ体験をしながらロンドンを目指すという、作者の実体験を元にして書かれた小説が『深夜特急』だ。

深夜特急は新聞連載から始まった。第1巻の出版は1986年

香港の古いビルディング
文庫版・深夜特急1は香港・マカオ

深夜特急は産経新聞に連載されていた小説で、第1巻が出版されたのは1986年という古い本だ。

これだけ古いとさすがに若い方は知らない人が多いだろう。

そういった古い本なのだがその影響力は凄い。この本に影響されて海外放浪の旅に出た、という人はかなり多い。

私も海外旅行中にそういった人達に何度も出会った。実際この本はとても面白いし、惹き込まれる小説だ。

 

1970年代の旅行体験を元にして書かれた小説なので旅行ガイドとしては役に立たないが、とにかく格好いい。

自分もこんな風に旅してみたい……と憧れさせる魔力がこの本にはある。

どこかハードボイルドな雰囲気もあり、本当に格好いい! そしてそこが、私がこの本を嫌いな理由でもある。

深夜特急の主人公「私」はとにかく格好いい。クールだ。そこが嫌い

夜景をバックにシンガポールのマーライオンが水を吐いている
深夜特急2。マレー半島・シンガポール

この小説の主人公は全編にわたって格好いい。

もちろん途中で失敗したりもするのだが、その失敗もどこか格好よさの残るクールな失敗なのだ。

ドラマを盛り上げるためにあるかのような失敗。 

 

ルポライターで著名作家の沢木耕太郎が主人公だ。そりゃめちゃくちゃ頭も切れるだろうから、本当にこんな風にずっと格好よく旅をしていたのかもしれない。

それに小説とはいっても売り物の商品なのだから、山あり谷ありで上手く盛り上げて読者を惹きつけなければならない。

面白みのカケラもないような、読者がおもいっきり引いてしまうような、そんなくだらないだけの失敗なんかはわざわざ書かないだろう。

でも長く旅行していると、そういうみじめな失敗をすることだって1度や2度はあると思うんですよ。絶対。

インドのバラナシ。ガンジス川沿いの風景
深夜特急3。インド・ネパール

馬鹿すぎる自分のせいでやってしまった、恥ずかしいだけの体験。

1年たっても2年たっても、思い出すたびに顔が赤くなってきて死にたくなる。

笑い話にもできない。人に話しても同情もされない。自分がすべて悪い。自分が馬鹿だっただけ。みじめだ……。

10年以上たってやっと風化してくるような、そんな経験。

 

こんな体験はブログにだってとてもそのままは書けない。

だから美化して書いたり、自分を格好よく見せて書いたり、都合の悪い部分だけ書かなかったりする。大抵の人がそうしている。

本当に恥ずかしい体験って、そのまま正直に書くのは難しいんじゃないだろうか。少なくとも私には難しい。

自分の嫌な面や駄目な面からは目を背けたいし、そういった負の面を他人に知られると思うと心苦しいから。

だけれど、長期間旅行を続けていると、そんな人には知られたくないような体験だって一度や二度はしてしまうものだ。

砂漠をラクダに乗った人達が通っている
深夜特急4。シルクロード

深夜特急は名作だ。それは間違いない。主人公は思慮深く行動的で、とても魅力的。途上国の貧困や当時の現状もよく描かれている。

けれども私は好きになれない。格好よく旅する主人公に対して『いや、それだけじゃないだろう』って思ってしまう。

旅って格好いいだけじゃないだろう。思い出すだけで死にたくなるような、みじめったらしい経験だってしているだろう。

そういうみじめさを感じることだって旅の醍醐味じゃないのか。そんな風に考えてしまう。

 

要するに、旅することを格好よく書きすぎているのが鼻につくんですよね。そこが好きになれない。

沢木さんだってホントにみじめな恥ずかしい失敗もあったろうに、そういう所は描かれていない。

トルコ・イスタンブールの写真。大きいモスクが目立つ
深夜特急5。トルコ・ギリシャ・地中海

……自分が沢木耕太郎のように格好よく旅ができないからって嫉妬しているのだろうか? 

いや、でもなあ。怪我したり死んだりさえしなければ、死にたくなるような最悪の恥ずかしい経験だって悪かないと思うんだよなあ。

まあ後になってからそう思うだけで、やっちまった当時はとてもそうは思えないのだけれど。

最低最悪にみじめで情けないだけの経験をしてしまって、それでも無様に旅を続けるような、そんな一面も描いて欲しかったなあと思う。

そのほうがより一層人間らしくて魅力的に思える気がして……。

イギリスの古い形式のポストの写真
深夜特急6。南ヨーロッパ・ロンドン。この巻で完結

すこし批判的に書いてしまったが、面白い本であるのは間違いない。そうでなければあんなにたくさんの人(累計600万部以上売れている!)が惹かれる訳がない。

この本のおかげで人生が変わってしまった人もいるだろう。

興味があるなら一読をおすすめします。今ならkindleの全6巻合本版も出ていて読みやすいです。


コメントする